2020年3月25日(No.7)

「成長株と割安株」

株式の投資手法は、成長株グロース株投資割安株バリュー株投資に大別されます。前者は、企業収益の成長性に注目し投資し、後者は、企業の利益や資産の額に対して過小評価されている株式を選別します。

私の場合は、証券会社や運用会社でのほとんどの人生を、成長株の発掘や推奨に費してきました。今考えれば成長株というよりは投機色が強い材料株だったかも知れません。最初に割安株と付き合いだしたのは、1998年に米系の投信会社に入社し、同社がグローバルで運用するバリュー株投信の日本でのマーケティングを担当した時です。

そのファンド、確かに過去のパフォーマンスは良かったのですが、このバリュー株投資の魅力を日本の投資家に理解してもらうのは大変困難でした。販売促進の際よく説明に使ったのは、バリュー株投資は「真冬に麦藁帽子を買うようなもの」という例でした。確かにそれだと、いくらか安く買えるイメージですが、日本の投資家は、真夏に熱中症対策に良いとかのセールストークで、麦藁帽子を高値で推奨され続けてきたので、バリュー株は刺さらなかったみたいです。グロースでは派手ですが、バリューは地味ですね。

更に悪いことに、1990年代後半は世界がITバブルの最中にあり、ドットコム関連やゲノム関連株が赤字なのに短期で何倍にも値を飛ばしていました。私の担当は、その対極にあった食品株や公益株が中心の株式投信でした。その商品は時流に全く乗っていなかったため運用成績は振るわず、私はよく、アメリカ西海岸にある運用会社に、説明が難しいだけではなくパフォーマンスが悪いと、クレームを付けていました。

しかし、そのアメリカ西海岸にあるバリュー株専門の運用会社を訪問した時、聞いて驚いたことがあります。「うちのお客の中に有名なスポーツ選手がいるんだ。誰だと思う。タイガー・ウッズだよ」。この話はとても意外でした。ウッズは、1997年のマスターズに史上最年少で初優勝した、まさにスポーツ界の成長物語のヒーローだったからです。なんでそんなピカピカのグロースな人がこんな地味なバリューを買っているのだろう?

その後もウッズは、メジャー選手権14勝など多くの栄光を勝ち取り、史上最も偉大なゴルファーの一人にまで登りつめましたが、それも長くは続かず不倫騒動や病気などの深いどん底も経験することになります。彼がその冬の時代に備えて、長期投資でバリューを買っていたのかどうかはわかりません。ひょっとしたら、グロース株投信も持っていたのかもしれません。しかしながら、タイガーの資産運用は、誰かのアドバイスがあったにせよ十分に計画されたものであったような気がします。

その後間もなく、アメリカのITバブルは弾けました。そして夢を追いかけたグロース株は急落し、反対にそれまで長い間、実力に比べ割安の放置されていたバリュー株が上昇を開始したのです。

ただ、私は単純に成長株を追いかけるのは危険で、割安株を丹念に拾うのが最良の投資手法だと言っているのではありません。ロシアの作家プリボイ(写真右上)は次のように言っています。「よい女房をもらおうと思ったら、ダンスの輪の中から選ばずして、畑で働いている女性の中から選ばなくてはならない」。しかし、ゲーテ(写真右下)はこうも言っています。「男は頭でこそ家事のうまい女を嫁にと探すが、心では、空想では別の魅力にあこがれているものだ」。
人生も投資も、成長株と割安株(ダンスの輪と畑)の両方あって楽しいのでしょうね。